秘湯!水安堡温泉



  「温泉」という響きにはどのような印象を世間一般では抱くのであろうか?。もちろんその反応は世界各地で様々である。日本近郊のアジア地域では入浴そのものを楽しむ物であり、欧米ではプール用に楽しむ物と一般的には考えられている。このように書くと、「えっ、温泉って日本だけのものじゃないの?」と言う疑問に思う方も見えるかもしれないがここに記述したとおり温泉自体は世界各地で楽しまれている。日本はたまたま火山地帯の一角に位置しているのでほかの諸国よりも温泉に親しむ頻度が多少高かっただけに過ぎない。

  随分突飛な所から話が始まってしまったがここでは韓国の温泉について話を進めて行きたい。2002年の秋に私とhirockyの二人で韓国ぶらり旅に出掛けてきた。詳しい行き先もその時になって決めるという、まあアバウトな旅であったがその「行き当たりばったり」的な所が今回の大きな魅力でもあった。3日間という限られた時間の範囲で行ける所を、「をああでもない、こうでもない」、などと地図とビールを片手に協議していた時、ふと温泉に行こうという結論になり水安堡温泉に白羽の矢が立ったのである。

  我々一向はバスを乗り継ぎ、つたない韓国語を駆使して現地の人々との交流を楽しみつつその温泉街に夕方たどり着いた。日本と比較してみると季節が一月くらい進んでいるような感がある韓国の地は果たして肌寒かった。朝鮮半島のど真ん中ということもおそらくこの寒さを後押ししているのだろう。街を歩いてみると、小ぢんまりとした建物が並んでいる中にホテルや旅館が時々大きな顔をして建っているという景観は日本とよく似ており、ハングル文字がなかったら日本の渋い温泉街そのものである。

  だんだん日の光も乏しくなってきたので宿を探すことにした。韓国でホテルを探す事はとても簡単である。日本でいう湯気のような温泉マークを探し当てることができればその建物はたいていホテルになっている。従ってそのホテルが必ずしも温泉があるとか風呂屋と一体になっているという訳ではない。予談であるが、韓国のホテルは派手な色使いが多いのも特徴的だ。なんとも日本のラブホテルによく似ている感じである。ネオンの色合いなんかは絶妙で、日本にいたらこんなところには絶対旅では選択しないと思われる雰囲気をかもし出している。そんなラブホテルのようなところから一つ選んで私とHは泊まることにした。

  ホテル自体はかなり閑散としていた。どうやらお客は我々とあと2、3組だけのようである。実際あまりにも暇だったのか改装工事真っ只中の部屋もいくつか見ることができた。まあここは温泉だし、肝心な温泉が良ければそれでいいのである。そんな思いを共に語りながら私たちは地下にある大浴場に向かっていった。大浴場に行ったのは良いが、ハングルのみだったので男湯か女湯かもわからず意外な所で苦労してしまった。ただ番台のようなところは久しく使われた形跡はなく、片方の入り口は電気が消されていたので私とhirockyは戸惑いながらも電気のついた方へ入っていった。ピンク色のタイルがいかにも女湯の薫りを漂わせていたが、そこしかやっていないので間違ってはないと思う。脱衣所に入って服を脱ぎつつ湯舟のほうを見るがこれまた趣味の悪いラブホテルみたいで閉口してしまった。ナトリウムランプのおかげで世界がオレンジ色になっているのである。しかもよく見ると(別によく見なくても)恐ろしく汚い。やっと一人入ることのできるトイレはトイレットペーパーが散乱しており、浴場にはなぜか歯ブラシと「EROSシャンプー」と書いてある瓶が散乱していた。(写真館にて写真を掲載中)「汚ったねえ〜・・・」、これが私の抱いた第一印象であるが逆にこの汚さがアジアを物語っている気がしてうれしくもあった。

   「それでも温泉が暖かければ問題ない!」などと言い聞かせてシャワーを浴びて我々はさっそうと湯船に入ってみた。結果はというと・・・ぬるかったが冷たくもなかったので一安心できたが、しばらくたってから湯船を眺めているとお湯の表面には垢や油が浮かんでいてなんといえない気分になった。この大浴場には湯船3つあり、一つはサウナの隣に備え付けられた水風呂(当然サウナはやっていない)で、もう一つは空になっていたが、こうやって湯船から周りを眺めているとまるで廃墟になった風呂に浸かっているいる気分だった。空っぽの湯船、床にはなぜか大量の使用済み歯ブラシ、後ろを振り返ると作り物の滝があったがデッキブラシが立てかけてあり水が申し訳なさげにちょろちょろと滴っていた。今思うとこれはこれで面白かったけど、湯船で脚を投げ出して見ていた私にはわびしさと寂しさが心の中を駆け巡った。

    10分くらい湯船に浸かっていたらおじさんが一人脱衣所に入ってきた。ここの管理人のようないでたちの人だったが、なにやらニコニコしながらスイッチのようなものをいじって、「ガコン」、というような音をたてて帰っていった。その途端に湯船の底から熱い温泉が湧き出てきたのである。滾々とあふれ出てくる大量のお湯が音をたてて隣の空の湯船に落ちていくことに妙な満足感を覚えた気がした。ようやく体も温まり落ち着いてきた頃、「この水循環しているだけじゃないのかな?」と、ふとhirockyが言った。「じゃあこのごみを隣の湯船の排水溝に流してみて、こっちに出てきたらそうじゃないのかあ」、と私が答える。というわけで早速試してみようということでそのごみを隣の排水溝に流してみることにした。廃墟のようなこの場所で裸のヤロー二人が湯船でなにやらもぞもぞうごめいている・・・。この様子をビデオカメラで撮影して見たらさぞ不気味な光景なのかもしれない、と考えた瞬間私の背筋には虫唾が走ったのであった。



戻る